小さな詩人たち

テレジンで
(テディ)
ここは なにもかもが とてもおかしい  
ぼくたちは 床に寝なければならないし  
    こんな黒い くさったジャガイモしか たべられない
   これが ぼくの家だっていうのか?   
こんな きたないところが…
ぼくは どろだらけの床に横になるんだよ 
     何をしても すぐ どろんこによごれてしまう

ここは いつでも人でいっぱいだ     
ハエも たくさん飛びまわっている    
  ハエが 病気をはこんでこないかしら?
       あっ 何かが ぼくを刺した シラミかな
テレンジはなんて おそろしいところだ  
   いつになったら  ぼくたちは      
     家にかれるのだろう…

我が家
(作者不明)
 “家よ 家よ 楽しいわが家          
世界で たったひとつの家よ…” 
それは ミレナが赤ちゃんだったころ   
アニーが うたってくれた歌   

“家よ 家よ 楽しいわが家        
   世界で たったひとつのよ        
大好きな だい好きな…”
   そんな家なんて  どこにあるの?      
         今の私は フレデックに住むミレナじゃない
       私の名前は 三つの数字の番号…


我が家
(フランティセック・バス)

ぼくは 広い世界を じっと見ている   
広い そして遠い世界を         
ぼくは 南東の方向を じっとみている   
わが家の方を じっと見ている       

     ぼくは わが家の方を じっと見ている   
ぼくの 生まれた 町の方を   
  ぼくの町は ぼくのふるさとの町   
        ぼくが どんなにそこへ帰りたがっていることか…


小さなネズミ

(M.コセック)
一匹の子ネズミが 巣のおくで         
  細い毛のなかのノミ とろうとしている
        一生懸命がんばっているのだけど なかなか つかまえられない  
         かわいそうに、ついてないネズミだ    
  ノミは あっちへ こっちへ走りまわる
 そこに お父さんネズミが やってきて     
    子ネズミの 毛なかを見ると すばやくノミをつかまえて
 パッと 火のなかに投げ入れた   
そのとたん 子ネズミは            
       おじいさんネズミを 食事にさそいに走っていった
 「今日のメニューは オーブンで焼いたノミだよー」


虫 さ ん
(エヴィカ)

 ちいさな赤い虫よ              
ぼくの手のひらに ちょっと止まっておくれ  
おまえは  外を飛んでいる          
  バラの花から みどり木々へ     
  そして 夕方になると 家に帰っていく

虫さん! ぼくの仲良しの虫さん!      
もっと遠くへ飛んでお行き    
ここは お日さまの光もないし        
暖かな ひなたもない      
  ここには みどりの木もなければ バラの花もない

みんな苦しんでいる             
  家に帰れる日を まちこがれている  
お前はどこに住むつもり?         
ねえ 虫さん お前はどこえとんでいくの? 
ぼくのおばあさんはいつ帰ってくるのだろう?
    あの“東”から……     

私はひとりで行きたい
(アレナ・シンコヴァー)
私はひとりで行きたい           
     どこか別の よい人たちの住むところへ
どこか 知らないところへ     
      だれも人をころしたり  しないところへ
夢に見ていた その目的地に   
         行きつくことができるのかしら  
    おおぜい 1000人もの人が        
            行きつくことができると良いのだけれど…


喋 喋
(バヴェル・フリードマン)
最後の ほんとうに最後の蝶々        
明るく まぶしく 黄色にかがやく      
  まるで 白い石にこぼれて きららめく 
       太陽の しずくのように…     
最後の ほんとうに最後の蝶々        
かろやかに 空高く 舞い上がって行く    
    きっと 世界に さよならのキスをしたくて  
       高く 高く とんで行くのだろう  

もう7週間も ぼくは ここに住んでいる   
ゲットーの中に とじこめられて       
      でも ここにも 仲間がいるのを ぼくは 見つけた
タンポポの花が ぼくに呼びかけ        
栗の花が 庭に 白い灯をともす       
  でも もう 蝶々はいない      
あのときの あの黄色い蝶々が         
        最後の蝶々だったのだ       
もう 蝶々はいない ここには         
       このゲットーのなかには…